美術家の山本愛子さん(詳しいプロフィールはこちらのブログから)が島にリサーチに来た際の滞在日記を3回に分けて公開しています。

前回までの記事はこちら↓

#039 アーティストプログラムin神津島 山本愛子 リサーチ日記①

#040 アーティストプログラムin神津島 山本愛子 リサーチ日記②

今回は最終回です。

【9月11日 晴天(5日目)】

くるとで草木染めをやってみ

いよいよ最終日。草木染めをやってみる、の日です。イベントとして告知しているわけではなく、あくまでもリサーチ+@の実験会。午前中は明日葉とカクレミノ。午後はパッションフルーツの実と皮です。くるとの庭に草木染めエリアをつくり染め実験。いろいろな人がくるとに訪れ、草木染めだけではなく、それぞれのやりたいことを行っています。フラダンス、泥遊び、お絵描き、それぞれエリアが生まれ、どこかフェス感がありました。神津島では黒曜石がとれるらしく、林さん(島の黒曜石博士)が持ってきてくれた黒曜石を使って、布に模様をつける際に活用したりと、予期せぬコラボレーションも生まれました。

パッションフルーツがすごく楽しい

いくつかの草木染めをしてみて特に印象にのこったのはパッションフルーツです。皮と葉を染色に使い、中身は後日食べられるので保管します。ひとつの植物が、その場で食材部分と染料部分に仕分けられて行きます。実を割る人、中身をくりぬく人、皮をすりおろす人、皮をハサミで刻む人、葉っぱを手でちぎる人。たくさんの工程が生まれ、チョキチョキ、バリバリ、すりすり….いろいろな音が聞こえてます。徐々にくるとの空間がパッションフルーツの美味しそうな香りに包まれれ、食べられる部分でジャムが作れるね、と話したり。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、五感すべてを刺激される作業です。

それぞれが満足する色

1日たっぷり草木染めをして、夕方には色とりどりの神津島色の布が染め上がりました!のれんも良い色に。パッションフルーツからは、見た目の赤色ではなくうっすらラベンダー色が染まったりと、予想外なことがいっぱいです。草木染めは、100%人間の思い通りにはいかないところが面白い。同じ草木でも季節によって染まる色が変わったり、布の生地によっても変わったり、ちょっとしたことで反応が変わります。一期一会の自然現象に寄り添って染まった色は、どんな色でも失敗ではないと思います。ただ、失敗はないけれど好き嫌いがあるのは事実です。今回も、赤くしたかったのにグレーになっちゃった、と不満そうにしていた女の子がいました。途中で別の染料に入れ直し、重ね染めをしたら緑色っぽくなり、好きな色になった!と喜んで帰っていきました。試行錯誤している間に、当初の赤く染めたかった気分から晴れたようでした。なかなか思い通りにならないからこそ、予想外を受け入れ、染まる瞬間が嬉しかったり、もっとやりたいと思えるのかもしれません。

【9月12日 小雨(6日目)】

あわいのはたをしまう

あっという間に帰る日がやってきました。朝から小雨の中、帰るのが寂しい気持ちです。あわいのはたをしまう儀をひとりで行いました。自分が神津島にいるときは、また次回もこのハタが揺らめいていてほしいなと思ったり、神津島で染めた布もこのハタにつぎあわせていきたいなと思ったり。

草上の昼食

島での最後のご飯は、昨日の草木染め実験のあまりで作ったパッションフルーツジャムで、飯島さんがピクニックランチをつくってくれました!忙しいはずなのに、ありがたい限りです。HAPPY TURNメンバーと一緒に、はるか展望台でピクニック。(映画「天気の子」の舞台にも出てきた展望台らしい。)HAPPY TURN事務局のみなさんは、終始自然体で接してくれたので、私も肩の力が抜け、気持ちよくこの6日間を過ごすことができました。感謝をしながら、ラストパッションの味を噛み締めました。

記憶と染色

みんなとバイバイをして、ジェット船で4時間かけて竹芝港へ戻ります。島が遠ざかっていくのを見ながら名残惜しむと同時に、じわじわと、帰ったら仕事がたくさん待っているなぁと思い出します(ありがたいことです)。日常へ帰っていって、忙しさに埋もれて、島での思い出の鮮度が少しづつ薄まってしまうと思うと寂しくなりました。時と共に少しずつ色褪せるという面で、記憶と染色は似ているなと感じます。色褪せてしまうからこそ、その瞬間が特別なものに感じる。色褪せてしまうからこそ、また行きたいな、また染めたいな、と思える。その繰り返しかのかもしれません。そうして人に、布に、幾重もの記憶が染め重なり、少しずつ味わいを増して、風合いをまとっていくのかもしれません。また次回、少し色褪せたのれんをくぐって、ハッピーターンする日が待ち遠しいです。