島で「幸せなターン」をしている人々にお話を伺い、その物語を共有する『HAPPY TURN/神津島 通信』。久しぶりの今回は、文化・芸術政策について学ぶ大学生の中尾真優さんから、くるとスタッフ5名がインタビューを受けたことをきっかけに、記事を書いていただきました。中尾さんが文化・芸術政策に興味をもったご自身の経緯や、なぜHAPPY TURNにインタビューをしようと思ったのか、また実際に話をしてどう思ったかが綴られいます。ぜひ最後までお読みください。


文化・芸術政策について学ぶ大学生がくるとスタッフにインタビュー。地域におけるアートって?

名前:中尾真優
年齢:22歳
所属:東京大学
出身地:富山県氷見市

自己紹介

 東京大学文学部人文学科社会学専修の中尾真優と申します。私は、富山県の氷見市出身で、進学を機に上京しました。私が通っている大学では、進学振り分けという制度があり、大学1、2年は全生徒が前期教養学部で学び、3年になるタイミングでそれぞれの興味関心から進学する学部を選ぶことができます。私はそこで、普段は当たり前のようにして社会で起こっている幅広い事象において、なぜそれが発生するのか、我々にどのような影響を与えるのかということを知りたい!という思いをもち、文学部の社会学専修を選択しました。今思うと、上京を機に感じた地元の生活との違い、触れる世界の変化が、社会や環境が与える個人への影響力といったものへの興味につながったのかなと考えています。社会学専修の中でも特に、文化政策や芸術政策について学ぶゼミに所属し、日々「文化とは何か」「芸術文化が人々にどのように利用される必要があるのか」といったことについて考える活動をしています。

なぜHAPPY TURNをインタビューしようと思ったか

 私がHAPPY TURNをインタビューしようと思ったきっかけは、自身が卒業論文を執筆する上で、興味深いお話が伺えるのではないかと思ったからです。私は、文化政策や芸術政策について学ぶゼミに所属する中で、自身の卒業論文のテーマとしてアートプロジェクトについて研究したいと考えていました。今年(2023年)の2月にゼミの活動の一環として、大学のキャンパス内でコラージュアートを作るワークショップを企画・実施しました。その中で、同じキャンパスにいるのに普段は全く関わらない人たちが作品を通じてコミュニケーションをとっていたり、私自身も色々な人の作品を見て多様な価値観や感性に触れる中で「表現を通じて人と関わるのって面白い!」と感じたりしました。この活動がきっかけで、アートや表現を通じて人が関わることへの関心が高まり、アートプロジェクトについて研究しようと決めました。研究を進める中で、「地域の活性化、地域コミュニティの創造のためなら、その手段はアートである必要があるのか。アートである意義がどこにあるのか。」という問いが生まれました。そこで、実際にアートプロジェクトを行っている方々にお話を伺いたいと思い、その中で見つけたのがHAPPY TURNの活動でした。HAPPY TURNは神津島という地域に対して、数年間にわたり活動を行っており、その中で感じた地域の人々やコミュニティの変化を伺うことができるのではないかと考えました。また、活動に関わる方の中に、もともとアートに通じている人ではなく、このプロジェクトでアートの可能性に初めて触れた方が多いということも伺い、そのような方にお話を伺うことで、より幅広い視点からアートを用いる意義を捉えられるのではないかという期待もありました。

インタビューしてみて、感じたこと、印象に残ったこと

 私がインタビューを通じて最も印象的だったのは、みなさんが自身の活動に誇りを持っていて、同じような志で活動に取り組んでおられることが伝わってきたことです。それぞれの表現の違いはあれど、お話を伺った方は皆さん「神津島の人々が多様な価値観を受け入れて、地域のつながりを広げていく」ということをとても大切にしておられる印象を受けました。その思いを実現する上で、正解不正解のない、多様な考えを受け入れるきっかけとなるものとして「アート」という手法に可能性を感じているということがわかりました。先行研究においても、多様な価値観を持つきっかけとしてのアートの価値を論じるものに出会っていましたが、実際に活動されている方々の生の声を聞くと、自身が想像していた以上に、この側面においてアートへの期待が大きいのだということを実感できました。また、くるとの拠点スタッフの方が声を揃えて、「この活動を始めたことに自分自身が救われた」とおっしゃっていたことも非常に印象的でした。島に移住してきて、他者との関わりが持てていなかった中、この活動に参加し、同じような境遇の人と出会い、島の人と関わりを広げていき、生き生きと暮らせるようになったということを皆さんが嬉しそうに話しておられました。私は、今まで「アートプロジェクトは地域に外部のアーティストが入り込むことで地域の中の人が変化する」という構図に囚われていました。しかし、アートプロジェクトを動かす人自体が変化し、この活動で救われることもまた、アートプロジェクトのもたらす価値だということに気づかされました。

 このインタビューを通じて、自身の研究に対してたくさんの気づきが得られたことはもちろんのこと、地域をより良くしようという思いを持った方々が手がける日常的な活動から規模の大きなアートイベントに触れられる環境が羨ましいと素直に思いました。だからこそ、神津島の方々には、HAPPY TURNの活動を今まで以上に楽しんでほしいと思いますし、私もタイミングがあれば参加させていただきたいと思いました。改めて、インタビューにご協力いただいた皆さんに感謝を申し上げたいです。ありがとうございました。


〜インタビューを受けて〜  拠点スタッフ 角村悠野
日頃の活動を改めて言葉にしてみると、そこで気づくことがたくさんあり、自分たちにとっても振り返る良い機会になりました。また、神津島において、中高生以上の多くの学生は進学のため本土に出るので、大学生の方と日常出会う機会がほぼありません。学生の方の視点や、眼差しは、私たちにとって新鮮な刺激となりました。ぜひいつか、実際に神津島へ来てほしいと思います。私たちの活動に興味を持って訪ねてきてくださり、ありがとうございました!

写真:村上大輔
編集:飯島知代