HAPPY TURN/神津島を運営する中で、アートプロジェクトのことをもっと知りたいと思うようになった 事務局 飯島知代が、その現場や関わる人たちを訪ねたレポートシリーズです。

アートプロジェクトを訪ねて③ 大阪 ブレーカープロジェクトの『作業場』

今回私が訪ねたのは、大阪で活動しているブレーカープロジェクト。2003年からスタートした大阪で行われている約20年続くアートプロジェクトです。

ブレーカープロジェクトホームページ↓

BreakerProject.net – About us

始まった当時はまだ「アートプロジェクト」ということばも曖昧だったそう。自分の表現をするためにしっくりくる場所を求めて、必然的に美術館やギャラリーだけにとどまらない場所、まちに出ることをしようとするアーティストが出てきたといいます。プロジェクトのディレクターである雨森信さんも、そこに面白みを感じていたとおっしゃっていました。

今回はそんなブレーカープロジェクトのプロジェクトの1つ、美術家・きむらとしろうじんじんさんらが廃校になった小学校で月に数回オープンしている『作業場』へ行ってきました。

場所は旧今宮小学校。2015年に閉校した小学校です。

住宅地の中にあります。受付を済ませた参加者は、大人もこども、何をするか自由に選べます。

廃材の木材をひたすらヤスリで削ってつるつるにして積み木をつくる場所↓

畑の看板が古くなっているので、新しく作ったものにペンキを塗る場所↓

プロジェクトに必要になった木材を切ったり加工する木工室もあります。

美術家・きむらとしろうじんじんさんと陶芸の作業ができるところ↓

窯はもともと小学校にあったそう。

リアカーに乗った薪ストーブで火を焚いているところ↓

学校の裏には、畑があって、季節によってそこで野菜を育てたりもしているそうです。

生ごみを集めて栄養のある土づくりをしたり、採取した種からまた次の栽培を始めたりと、畑づくり1つにしても「作業場」だからこその活動が添えられているように思いました。

更にその日同時に行われていたのが「西成・子どもオーケストラ」。

私が見に行ったときは、体育館にたくさんの楽器が置かれており、テニスコーツのさやさんをはじめとする、プロのミュージシャンがその場の即興でリズムやメロディを奏でていました。参加者はこどもも大人も、いつ来て参加しても、出て行っても大丈夫。

ミュージシャンの方たちが奏でるリズムや音を聞きながら、音を鳴らす人もいれば、とにかく楽器をさわりたくて、入ってきて太鼓をたたいて出ていくといったように自分の出したい音を出したいように演奏する人も。

楽器はいろいろなところから寄せ集めで、廃館したホールにあったものや、周辺の施設から借りたものだそう。大太鼓やジャンベ、木琴・鉄琴、すずや鍵盤ハーモニカなどありとあらゆる楽器がありました。鍋の蓋や紐などの道具もあって、オリジナルの楽器もつくれてしまいます。

実際に音がしている体育館に入ったとき『楽器を奏でる=楽譜や曲があり練習して合わせる』イメージがあって、自由に演奏できる場に出会ったことのない、私は、何をどうしたらいいのか戸惑ってしまいました。

「これをやってみますか?」とジャンベをもらい、なんとなく音を聞きながら叩いているうちに少しずつ「できない」「恥ずかしい」という気持ちがなくなっていったように思います。発表会のために練習をするわけでもなく、楽器が苦手でも得意でも、その場で即興的に音を出していい空間のおもしろさ。その心地よさと難しさを短い間に感じた時間でした。

どんな人たちが来ているのか、参加者に話をきいていくと、休日、家の人が仕事で地域の児童館にいるこどもたちが、児童館のスタッフの方と一緒にみんなで「作業場」に遊びに来ていることが分かりました。児童館のスタッフの方たちにとって、「作業場」がこどもたち遊び場としていい場所だということが伝わっており、来ることが恒例になっていることが、プロジェクトが地域に溶け込んでいる様子として伝わってきました。

もう1つ体験したことがあります。それは、「ちょちょまうヴァナキュラー 〜にしなり+路上+野点+屋台(略称:ちょちょヴァナ)」という、きむらとしろうじんじんさんとブレーカープロジェクトが取り組むプロジェクトの企画の1つにある、こどもたちが自由に街を案内する「おさんぽツアー」の練習のお客さん役をしたことです。

「今池こどもの家」という地域のこどもたちが誰でも遊びに行くことができる児童館のような場所に通うこどもたちが、自分のオススメする場所を案内する、おさんぽ企画。

これまでこどもたちは、どこへ行くか、おさんぽするためになにが必要なのか、誰がどこを担当するかなど、話し合いをして決めてきたようでした。

3月の本番に向けて練習をする日。じんじんさんは、いつも知っている顔だと緊張感がないから…と、こどもたちにとって、はじめましての人を練習役として連れてきたのでした。

↑こどもたちが作った地図

この中で印象に残ったことがあります。それは、おさんぽでオススメの場所を紹介する順番です。

2番目に案内するところと、5番目に案内するところがすぐ近くにあります。4番目の場所は少し遠いところ。でもこどもたちは2番目と5番目を一緒に案内せずに、来た道を戻りながら決めた順番通りに案内をしました。

「5番目がすぐそこなのにどうして?順番は何で決めたの?」という大人の質問に帰ってきたのは「あみだくじ」。こどもたちは行く順番を「あみだくじ」で決めていました。

行ったり来たりする中で、いくつかの道を通り、ジュースが30円で売っている自動販売機を目撃したり、「あそこは少し高いから行かないスーパーだよ!」などのお店の情報を知ることができたり。

おさんぽ中にみかけた とても安い自動販売機↑

そこがとてもおもしろくて、「あみだくじ」でしか見られなかった風景があるな、と思いました。

つい大人は、近いからそっちを先に案内しようと言ってしまいがち。こどもたちが決めた「あみだくじ」の順番通りにまずやってみる。そういった、できるだけこどもたちのやりたいようにさせる余白と見守る余裕のある場こそがとても大事な気がしました。

「ちょちょヴァナ」本番はおさんぽツアーのほかに、きむらとしろうじんじんさんがドラッグクイーン風メイクで行う野点、じんじんさんが高校生と1年をかけて進めてきた「妄想屋台」などもあったようです。詳しくはフライヤーをご覧ください↓

3月26日の本番は、どんな「おさんぽツアー」になったのかいつか話を伺えたらいいです。

最後にきむらとしろうじんじんさんとディレクターの雨森信さん他、スタッフのみなさんにお話を伺ったときに印象に残った言葉を紹介します。

「どんな風景を思い描いていて、何をしようとしているか。自分が魅力を感じていることは何か。が最終的にはプロジェクトを進めていく基準になると思うんです。」

ディレクターの雨森さんも、じんじんさんにも、プロジェクトを通して思い描く風景の軸があり、そのための必然性から活動が生まれているのだとお話を伺って感じました。それを誰かがなんと呼ぼうか?と考えた時、「アートプロジェクト」という言葉か後からくっついてきたような感じです。

一見とても自由に見えて、そこには運営する側+アーティストの思いがたくさん詰まっている。そんなブレーカープロジェクトの現場を目の当たりにし、HAPPY TURN/神津島で、もう一度スタッフと一緒に考えていきたいことが見えた気がしました。

他にも今回たくさんお話を伺って地域で活動していくことの面白さも難しさも、考え方も、たくさんのことを感じました。内容すべてはブログに書ききれなかったので、興味のある方は是非直接くるとへ来てください!

飯島